自動車の開発技術の革新により、自動ブレーキを搭載した車も増えてきました。2018年度より自動ブレーキ機能を搭載した車の任意保険料が大きく割引されることも発表されています。
そして、アクセルも自動で制御する自動車もすでに登場し始めています。今後目的地まで自動走行してくれる自動車が増えてくことが予想され、便利な世の中になったことを感じさせられます。しかし、そのような車が事故を起こした場合、その責任の所在はどこにあるのか、という問題があります。
自動運転による事故の責任の所在は不明確
自動運転中の事故では自動車の運転席に座っていた人が責任を負うのでしょうか、それとも、不備のある自動運転システムを作ったメーカーが責任を負うののでしょうか。
現在の調子で自動運転による技術が成熟していけば、完全な自動運転自動車というものが登場することが予想されます。そして、そのような完全自動運転の自動車が事故を起こした場合メーカーが責任を負うと考えられます。(もっとも、実際どうなるかはその時にならないとわかりません。)
しかし、技術が未成熟な現在では事情が異なります。2016年自動運転モードを搭載した自動車が自動運転モード中に死亡事故を起こしました。この事故では、メーカーが、自動運転モードは安全運転を担保するものではないと表明していたことから、責任の所在は運転者にあるとされました。
今後はもっと判断が微妙なケースも出てくることが予想されます。例えば、自動運転モードと手動運転モードの切り替えのタイミングでの事故の責任の所在はどこにあるかという問題が考えられます。自動運転から手動運転に切り替えた瞬間、責任がメーカーに切り替わるとは限りません。
手動運転に切り替えて0.1秒で発生した事故であれば、普通に考えれば自動運転を原因とした事故でしょう。では、2秒後ならどうでしょうか。3秒後なら?10秒後なら?このように考えると、秒数だけで判断していくことには無理があり、実際に発生した事故ごとに個別に責任の所在を判断していく他ないでしょう。また、従来の交通事故の過失割合のような、運転者とメーカー(あるいはソフトウェアの整備者)の責任割合も問題になってくるでしょう。
自動運転事故の被害者救済と自動車保険
自動運転による事故は被害者から見れば大きな問題です。従来交通事故の被害者は、加害者たる運転者に損害賠償請求していれば間違いありませんでした。しかし、自動運転の事故の場合、被害者は運転者とメーカーのどちらに損害賠償を請求すればいいのでしょうか。
これは法律的な賠償責任の問題ではありますが、自動車保険の問題と置き換えることも可能です。従来の交通事故では被害者は大抵、加害者の加入する保険で補償を受けてきました。つまり、保険会社が補償を肩代わりすればいいのです。
このようなシステムの導入は既に始まっています。損害保険大手の東京海上日動火災は、2017年4月から被害者救済費用等補償特約を全ての自動車保険に自動付帯することを発表しています。この特約は、自動運転による交通事故において責任の所在がはっきりしない場合にも、運転者が加入する自動車保険で被害者を救済するというものです。
自動運転に関する責任問題は法律上の問題としては今後も議論を重ねていく必要がありますが、自動車保険においてはこのような特約が業界全体に浸透すれば、一応解決することになると言えそうです。