交通事故により後遺障害を負った場合には、傷害を負った場合とは別に損害が認められています。ここでは後遺障害に関する損害の内容と金額について説明します。
目次
症状固定と後遺障害
症状固定とは、医学的見地から見て治療を継続しても効果が期待し得ない状態を言います。症状固定は医学的知見が必要とされていますので、医師の診断が必要です。
症状固定日より前の損害が、傷害に関する損害となり、この日以降が後遺障害に関する損害となります。症状が固定されるとその後の治療が必要なくなるというのが基本的な考え方であるためです。しかし、実際には症状固定と診断された後にも治療が必要となる場合があります。この場合は将来の治療費として損害が認められる場合があります。
後遺障害の損害内容
後遺障害慰謝料
後遺障害を負ってしまったことによる精神的苦痛に対する損害賠償です。青い本、赤い本、緑の本は、それぞれ、後遺障害等級によって慰謝料の基準額を定めています。
後遺障害等級は14等級まであり、1等級で3000万円前後、7等級で1000万円前後、14等級で100万円前後となっています。
逸失利益
逸失利益とは、将来得られたはずであるのに被害を受けたことによって得られなくなった利益のことを言います。交通事故においては、被害者が後遺障害を負ったことにより得られなくなった利益を指します。
後遺障害による賠償額は時には死亡時よりも多くなることがありますが、それは主に逸失利益が高額であることが多いためです。
逸失利益の損害の考え方には2つの考え方があります。
- 事故の前と後の収益差を損害と考える差額説
- 後遺障害の存在そのものを損害と考える労働能力喪失説
差額説では、事故の前と後で収入額が変わらない場合には損害は存在しないということになります。これに対して、労働能力喪失説では、後遺障害が存在した以上何らかの損害を認めることになります。
実務では基本的に労働能力喪失説が採られていますが、個別的なケースによっては差額説が採用され場合もあります。
逸失利益の算定方法は複雑なため後述します。
介護費
後遺障害の程度によっては、介護が必要になる場合があります。この介護は一生必要なものと考えられますから、平均余命に応じて損害額が算定されます。。平均余命とはある年齢の人が平均であと何年生きるかを示したものです。
一般的に1級または2級の後遺障害の場合には介護費が認められます。
将来の治療費
前述した通り、症状固定後も治療が必要な場合に、損害として認める場合があります。
装具・器具等購入費
身体の一部を喪失してしまった場合や視力・張力等の五感機能を喪失してしまった場合には、その障害を補うための装具・器具等が必要となる場合があります。これらの購入費用は損害として認められています。
家屋改造費
装具・器具等の購入と同様、障害の態様によっては、通常の住宅での生活が困難となる場合があります。このような場合には、障害者が住みやすいような環境に家屋を改造する必要があります。これらの費用も家屋改造費として損害に含まれています。典型的な例としては、車いす生活に対応するためのバリアフリー化があります。
逸失利益の算定方法
逸失利益の基本的な考え方は、将来得られるはずであった収入の合計ということになりますが、実際には発生しなかった収入を具体的な損害として認めるのは容易ではありません。そのため逸失利益の算定は他の損害と比べて算定が複雑となっています。
基礎となる収入
逸失利益の一番の基本となるのが、事故前に実際に存在した収入です。学生や主婦といった収入がない場合には賃金センサスの平均賃金を基礎としています。なお、賃金センサスとは、厚生労働省が調査。公表しているデータで、年齢、性別、職種、学歴等様々な見地から平均賃金を算定したものです。
若く労働能力の喪失期間が長い場合は全年齢の平均賃金を使い、短い場合は被害者の年齢での平均賃金を使います。
労働能力喪失率
認知絵された後遺障害等級に応じて労働能力喪失率が定められています。常に一律の喪失率が損害として認められるわけではなく、ある一定年齢を境に喪失率が変更される場合もあります。また、裁判の中で等級とは異なる喪失率が認定されるなど、柔軟な対応がなされています。
例えば、定められた喪失率は92%であった場合に実際の被害者の労働能力を考慮して70%の喪失率とした裁判例や、トラック運転手の片目失明のケースで最初の10年間は45%、その後67歳までは20%とした裁判例があります。
労働能力喪失期間
原則として就労が可能な年齢である67歳までの期間が認定されます。ただし、障害の程度や無為、機能改善の見込みの有無などによっては、それより早い時点に区切られる場合があります。
ライプニッツ係数について
以上の3要素を積算した金額が逸失利益の損害額となりますが、労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数も算定されます。現在の実務では民法の定める法定利率の5%の複利を想定しています。なお、民法改正により法定利率が引き下げられる可能性があり、その場合は逸失利益の算定にも影響してくることが考えられます。この場合支払われる金額は増額します。