休業損害が認められる範囲

人身事故で負傷して入院・通院等が必要で、その間に仕事を休まざるを得なくなった時は休業損害が認められます。サラリーマンであれば基本的に収入が大きく変わることはありませんから、直前の収入ベースで損害を算定すればほとんど問題は生じません。

しかし、収入が安定しない自営業の場合や、専業主婦などの収入のない職業の場合には、どのような範囲で損害が認められるかが問題となることが多くあります。ここでは、問題となるケーについて解説します。

自営業における過少申告

自営業者の休業損害は前年度の税務申告額をベースに算定します。しかし、自営業者の中には節税対策等で過少申告されていることも少なくありません。このような場合実際の収入よりも少ない額しか損害として認められないことになります。

これについては、税金は免れておきながらいざ賠償問題となると実際の所得を請求するというのもおかしな話です。他方で、たまたま被害者が過少申告をしていたからと言って、加害者が賠償責任を免れるというのも、これまた変な話です。

判例はこれらのバランスを考慮したスタンスを取っています。実際の所得が証明できた場合には、その額を損害のベースとすることを認めつつも、被害者にかなり厳しい証明責任を要求しています。つまり、ほとんど認められることはないということです。

ただし、例外的に、申告額ではおよそ生活していくことができないというような場合には、経営状況や家族の生活状況を基に、賃金センサスを参考にした所得を認定した判例もあります。

自営業者の通院中の休業損害

サラリーマンであれば通院したかどうかに関わらず、会社を休んだかどうかで判断できます。会社から休職日数を証明数書類を発行してもらえるため、証明も容易です。しかし、自営業者の場合は、仕事の合間に通院することも不可能ではなく、通院期間中の休業の立証が困難です。

そのため実務では、通院期間中の休業損害については、傷害の程度や態様、仕事の内容等を総合的に見て休業期間を判断することとしています。

例えば、個人タクシードライバーが足の骨折による通院中に業務を行えるとは通常考えられませんから、この期間は休業期間に算定されると考えられます。

自営業者の固定費

自営業者が事故による負傷で休業すると、休業損害だけでなく、事務所の家賃などの固定費も全て損害となってしまう場合があります。このような場合には固定費も損害に含まれます。

ただし、ある程度の規模の事業で、本人が休んでいても他の従業員等がその事務所を使って業務をしていれば認められないと考えられます。

会社役員の休業損害

会社の従業員は労務の対価として賃金を受け取るため、欠勤した日数分の賃金相当額が損害として認められます。これに対して取締役や執行役員といった役員は任期期間に応じた報酬制となっています。そのため、休職したからと言って報酬額が減額されるわけではありません

つまり、報酬額がそのまま損害額となるわけではありません。しかし、実際には日本の多くの企業の役員が従業員と同じような労働をしています。そのような役員の報酬は、実質的には役員としての報酬部分と従業員としての賃金部分が合算されていると考えます。

このような場合には、従業員としての賃金部分については損害と認めるべきでしょう。実際裁判例では、報酬のほとんどが賃金部分であるとして、報酬の9割の金額を損害のベースとしたケースがあります。

会社代表者の休業による会社の損害

交通事故の被害者が企業の社長である等会社を代表する地位にあった場合、会社の意思決定ができなかったことによる損害が発生することがあります。現在の不法行為の考え方では、加害者が賠償すべき損害は、事故と相当因果関係がある損害に限られています。

会社代表者の休業によって会社が損害を受けたとしても、このような間接的な損害は賠償の対象とはならない、というのが原則です。

しかし、例外的に会社の損害が認められる場合もあります。それは会社が事実上の個人経営であり、会社の損害が実質的に被害者本人の損害と考えられる場合です。このような場合は自営業者の休業損害とほぼ同じ考え方を取ることになります。

税金の控除

休業損害は、被害者の所得をベースとして考えますが、それは所得そのものをベースとするのか、所得税等の税金が控除された後の金額をベースとするのかどちらとなるのでしょうか。現代の累進課税制度の下では高額所得者であるほど税金の控除率が高くなっていくため、軽視しがたい重要なポイントです。

休業損害を、休業したことにより得られなかった実質的な利益と考えるのであれば、控除後の金額が妥当なようにも思えます。しかし、本来稼げるはずだった金額はまぎれもなく控除前の所得です。

現在の実務では、原則として税金控除前の金額を損害のベースと考えています

違法な事業による休業損害

被害者が違法な事業により収益を得ていた場合でも、その収入が得られなくなった場合に休業損害を認めるべきでしょうか。違法な事業は法で禁止されており、本来はできないはずなのですから、損害と考えるのは不当なようにも思えます。

しかし、一言で違法と言ってもその程度や態様は様々です。麻薬の密売や無免許医師、白タク等の重大な違法行為に対してまで損害を認めるべきでないのは言うまでもありません。これに対して、規制法令が複雑化している現代社会において、軽微な違反に対してまで休業損害を認めないと被害者の十分な救済が実現できません。

そのため、軽微な違反であれば休業損害は認められる傾向にあります。要するに程度の問題です。

収入がない場合の休業損害

まだ職に就いていない学生や子供には休業損害が認められません。これに対して、専業主婦の場合は家事労働を行う職業として認められており、金銭的な評価がなされます。この場合は賃金センサスの女子全年齢平均賃金に基づいて損害額が算定されます。

では、兼業主婦で主婦業と会社勤め等をしている場合はどうなるのでしょうか。この場合は、実収入と賃金センサスの女子全年齢平均賃金の多い方を損害のベースとして扱います。

関連記事:休業損害の算定方法

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