交通事故によって妊婦が負傷した場合、胎児にも何らかの悪影響がある可能性があります。このような場合、胎児に生じた死傷等についても損害として認められています。
胎児が死亡した場合
交通事故によって胎児が死亡した場合、交通事故が原因で流産してしまった場合には、傷害に関する慰謝料とは別に胎児の死亡に関する慰謝料が認められています。
しかし、胎児は法律上人としての権利を有しておらず、交通事故における慰謝料についても人の死亡による慰謝料と比べて低く算定されています。具体的な裁判例では、妊娠9週間目の胎児が死亡したケースで200万円、妊娠18週間目で死亡したケースで350万円、36週間目で死亡したケースで母親に700万円、父親に300万円を認めた判例があります。
以上から、妊娠期間に応じて比例する傾向があることがわかります。
中絶した場合
胎児に関する慰謝料が認められるのは、胎児が直接的な被害を受けた場合に限りません。母親が事故によって受けた傷害の治療のためにレントゲンを撮る必要がある場合があります。しかし、胎児にとってはレントゲンの放射線は悪影響を及ぼすと言われています。
判例には、長時間のレントゲン照射により胎児に奇形が生じることを恐れた母親が人工中絶を行ったケースで、中絶はやむを得ないことであると認定して30万円の慰謝料を認めたケースがあります。
妊婦と交通事故に関する諸問題
妊婦が負傷してしまった場合は、胎児への影響を考慮すると、投与する薬剤に一定の制限を加える必要があることもあります。
また、妊婦に限った話でもありませんが、シートベルトは正しく着用しないと逆に傷害を負ってしまうことがあります。特に妊婦においては腹部の強い圧迫によって胎児を傷つけてしまう恐れがあります。このようなことのないよう、正しいシートベルトの着用が望まれます。