交通事故で死亡した被害者は加害者に対して逸失利益を請求できます。しかし、結婚して退職し家事に専念すると収入はなくなります。そのような家事従事者が交通事故で死亡した場合の逸失利益は古くはゼロであると考えられてきました。
しかし、収入を生まないからと言って逸失利益を認めないのは不公平にも感じられますし、実際現在では主婦業であっても財産的価値はあると考えられています。
家事労働の財産制を認めた判例
最高裁判所は昭和49年7月19日判決(民集28巻5号872頁、判時748号23頁)で、次のように判示しました。なお、事案は7歳の女児が交通事故で死亡したというもので、高等裁判所が25歳で婚姻して離職すると推定してそれ以降の逸失利益を認めなかったのに対して、女児の両親が上告したものです。
家事労働に属する多くの労働では金銭収入を得ることはできないが、労働社会において金銭的に評価されるものである。金銭的対価を受けないのは、家事労働が夫婦の相互扶助義務の履行の一環としてなされるためであり、また、家族間では金銭の授受が行われないという特殊な事情があるためである。
また、離婚の財産分与や相続によって蓄積された財産が妻にも還元されることからも、家事労働が財産的利益を創出しているものと見ることができる。
ただ、具体的事案において金銭的価値を算定するのは困難であるから、女子雇用労働者の平均的賃金に相当する財産上の収益を挙げるものと推定するのが適当である。
判例のポイント
この判例は家事労働についての財産的価値を明確に認めたもので、これ以降は現在に至るまで実務でも踏襲されています。
判例は、次の理由を挙げて家事の財産性を認めています。
- 一般に家事は財産的価値のかる労働であると認識されていること
- 離婚の際には財産分与されるし、相続も可能なこと
次に、家事に財産性があるのに金銭的な授受がされていない理由として次の理由を挙げています。
- 家事が夫婦の相互扶助義務の一環として行われていること
- 家族間では通常金銭の授受が行われないこと
以上の事情を認めた上で、実際の事例のように7歳で死んでしまった子供の将来の労働の財産性を具体的に評価するのは不可能ですから、賃金センサスの平均賃金を使うのが妥当であると判断しています。