教習で第一段階を修了し、仮免許試験に合格すれば、いよいよ第二段階で路上教習が始まります。道路には当然他の自動車や歩行者がいますが、教習中に教習者で交通事故を起こして第三者に損害を与えてしまった場合、誰がどのような責任を負うのでしょうか。
また教習中の事故で運転していた生徒が怪我をしてしまった場合、治療費などの補償は受けられるのでしょうか。
教習車で事故を起こした場合の運転者本人の責任
仮免練習中であろうと、原則として責任を負うのは運転者自身です。ですので、仮免運転中であるからと言って「いよいよの場合は隣の指導員がブレーキを踏んでどうにかしてくれるだろう」などと油断せずに、自らの責任で周囲に注意して運転する必要があります。
交通事故を起こしてしまったときは、本免許を取得している場合と全く同じ責任を負うことになります。具体的には被害者から不法行為責任を追及され、損害賠償を請求される可能性があります。
また、同乗している指導員を死傷させてしまった場合には、指導員個人に対する不法行為責任を負う可能性もあります。
さらに、教習者を損傷してしまった場合は、その所有者である教習所に対しても不法行為責任・債務不履行責任を負います。
教習車で事故を起こした場合の教習指導員・教習所の責任
教習車を運転していた生徒だけでなく、教習指導員や教習所にも事故被害者に対する責任が発生します。
教習車運転中の事故の第一次的な責任はあくまでもドライバー本人にあります。しかし、教習車の助手席には教習指導員専用のバックミラーやサイドミラーがあり、ブレーキも搭載されています。そして指導員には教習車が事故を起こさないよう安全に教習を行う義務を負っています。
具体的には、仮免教習者に対して安全な運転を指導する義務や、周囲に対して教習者が暴走などの危険な運転をしないようにブレーキを操作する義務を負っていると考えられます。事故が発生すればこれらの義務に違反したとして、債務不履行責任及び不法行為責任を負うことになると考えられます。
もちろん事故の状況にもよりますが、事故が起こった場合に指導員にこれらの義務違反が一切ないということは現実問題として考えにくいでしょう。
そして、指導員が不法行為責任を負う場合には、指導員の雇用主である教習所は使用者責任を負うことになります。
また、教習所は生徒に対して、事故を起こさず安全に自動車運転免許を取得させるという債務を負っています。そのため、生徒に対して債務不履行責任に基づく損害賠償義務を負う可能性があります。
以上の責任をまとめると次のようにかなり複雑になります。
- 運転者:事故被害者への不法行為責任、指導員への不法行為責任(指導員が死傷した場合)、教習所への不法行為責任及び債務不履行責任(教習車が損傷した場合)
- 指導員:教習車運転者への債務不履行責任、事故被害者への不法行為責任
- 教習所:教習車運転者への債務不履行責任、事故被害者への不法行為責任(使用者責任として)
自動車教習所総合補償保険
以上のように法律に基づく責任論を展開すると、被害者、運転者、指導員、教習所という様々な立場が絡み合い、互いに損害賠償を請求する関係にもなる可能性が高く、法律関係は非常に複雑になります。
しかし、実はこのようなややこしい話をすることは実務上あまり意味がありません。
なぜなら、大抵教習所は自動車教習所総合補償保険という特殊な保険に加入しているためです。教習所総合補償保険とは、教習所特有の事故のリスクを総合的に補償する保険です。
例えば、教習所が通学バスを運行している場合に、そのバスが事故を起こしたときの事故が補償されたり、教習所の施設の欠陥によって生徒が怪我をした場合にも補償されます。そして、この補償の中には、もちろん教習車が教習中に起こした事故の補償も含まれています。
つまり、万一仮免教習中に事故が起こったとしても、被害者への賠償や怪我の治療費は全て教習所が加入している保険で対応することができるのです。ですから、指導員や教習所と訴訟沙汰になるようなことは現実にはほとんど起こりません。(もちろん教習所がこの保険に加入しているという前提での話です。実際にどうなのか気になる方は通っている教習所に直接聞いてみてください。)
また、教習所は運転免許取得者教育見舞金保険という保険にも加入しているのが通常で、その場合には、教習車教習中の交通事故で生徒が死傷した場合、この保険から見舞金が支払われることになっています。