交通事故でにおける物損で最も多く問題となるのは自動車そのものの損害ですが、自動車が建物に突っ込んで、店舗等に大きな損害を与える事故も珍しくありません。ここで紹介する判例は、建物の店舗に与えた損害の賠償方法を示したものです。
東京地裁判決交民28巻6号1779頁
事例
Xは度ろうに面した建物でレストランを経営していたが、Yが運転する大型トラックが店舗に突っ込み、建物や付属設備・什器・備品に大きな損害を与えた。XはYに対して、建物や設備の修理代金や備品等の買い替え費用の実費相当額の損害賠償を請求した。
これに対してYは、実費ではなく、耐用年数を参考に減価償却分を控除した額を損害額とすべきと反論した。
判決
修理によって耐用年数が増加して、明らかに事故前と比べて財産的価値が上昇したというような事情がない限り、相当な修理がなされ原状が回復されたに過ぎないというべき場合には、減価償却はすべきではないとして、Xの支出した実費を損害額と認めた。
解説
被害者の財産的損害の対象が自動車であれば、時価や買い替え費用、車検費用等の合計額が修理代金を超えれば、その自動車は経済的全損として扱われます。
本事例の加害者Yはこれと同じ考え方をして、建物や設備、什器、備品についても、自動車と同様に減価償却された価値が損害の限度額であると主張しました。
しかし、判決は、原則として損害額は原状回復に要した費用実費とし、減価償却分の減額を認めませんでした。
この違いは、自動車と建物という財産の性質の違い方来るものだと考えられます。自動車なら全損扱いして買い替えても、今までと乗っていた車が変わるくらいで大きな支障は発生しません。
しかし、建物の場合は、修理費用が建物の価値を超えたからと言って、別の場所にレストランを移転しなさい、というわけにはなかなかいきません。
もっとも、そう考えるのであれば、什器備品については、減価償却した額を損害額とするYの主張を認める余地もないわけではありませんが、そのような裁判例はないようです。