なぜ生保は「保障」で損保は「補償」なのか

同じ保険の世界でも、生命保険と損害保険ではいろいろと違うことがあります。そのうちの一つに支払われる保険金のことを指す言葉があります。

自働車保険(自賠責保険を除く)や火災保険等の損害保険金を受け取ることは通常「補償」を受けると言います。これに対して生命保険金を受け取る場合は「保障」と言います。

「補償」と「補償」の意味

このような違いが生じるのは、言葉の意味がそれぞれの保険の性質に合っているためです。国語辞典「大辞泉」によれば、「補償」と「保障」の意味は次のようになっています。

補償:損失を補って、つぐなうこと。
保障:ある状態がそこなわれることのないように、保護し守ること。

損害保険では、火災保険であれば焼失した家、自動車保険であれば他人に対する賠償金等が保険の対価となります。これらは本来あるべきモノが失われたことによって発生するものですから、「補償」の方がより意味的に近いということになります。

一方、生命保険では、人の死亡によって失われるのは、将来受けられるはずであった利益(逸失利益)と考えます。本来得られたはずの失われた利益が対価として支払われます。この場合は「保障」の方が意味的に近いと言えるでしょう。

しかし、これらは保険に対する視点を変えたものに過ぎません。例えば、対人事故で相手方に逸失利益が発生していれば、賠償金は相手方にとっては「保障」に他ならないでしょう。生命保険でも、逸失利益を補うという考え方をすれば「補償」でも意味は通じます。

つまり、「保障」と「補償」の違いは保険業界での慣習で使い分けられているに過ぎず、言葉の意味としてはどちらでも間違いではないということです。現に、第三分野と言われる傷害保険・医療保険の分野では「補償」と「保障」が混在しています。

損害保険でも「保障」が使われる場合がある

損害保険界隈でも自賠責保険では「保障」が使われます。

自賠責保険の目的は、自動車事故被害者の保護です。(自賠法1条)

任意保険では「損害賠償そのもの(=補償)」を目的としているのに対して、自賠責保険では、国(自賠責制度)が被害者の受け取る「損害賠償の保障」を目的としているのです。

このため、自賠責では「保障」が使われています。

とは言うものの、任意保険との統一を図り、自賠責についても「補償」と記載するケースも少なくありません。「補償」で統一している保険会社も存在します。

上で書いたように、「補償」と「保障」は厳密にはどちらを使っても間違いではありませんので、加入者の不用意な混乱を避けるためそうしているのでしょう。

当サイトでは任意保険に関しては業界に従い「補償」で統一し、自賠責保険については「保障」を使うようにしています。

「保証」について

あまり関係ないのですが、「保証」という言葉も、よく紛らわしい言葉とされていますので、ついでに説明しておきます。大辞泉によれば意味は次の通りです。

  1. 間違いがない、大丈夫であると認め、責任をもつこと。
  2. 債務者が債務を履行しない場合に、代わって債権者に債務を履行する義務を負うこと。

一番イメージしやすいのは借金の保証人(通常は連帯保証)でしょう。「保障」とよく似ていますが、「保証」は、今のままで問題ないことを担保する意味合いが強くなっています。これに対して、「保障」は問題があった場合の話です。

と、書いてもわかりにくそうなので、ニュアンスが掴めそうな例文を考えてみました。

「保険会社は、任意保険加入者が事故を起こさないことを『保証』することはできません。しかし、事故を起こした場合の車の修理費用は『保障』されます。また、加入者の起こした事故の被害者は、加入者保険金で『補償』が受けられます。」

あまり保険業界で「保証」が使われることはありません。上の例文で書いたように、何かあったときのための保険なのに、何も起こらないことを「保証」することはできないからです。

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