交通事故等の不法行為事件については、過失相殺によって加害者の賠償額が減額されることがありますが、減額されるのは過失相殺だけではありません。事故を原因として被害者が何らかの利益を得た場合は、その額に応じて加害者の賠償額が減額される場合があり、これを損益相殺と言います。ここで紹介する判例は、見舞金や香典が損益相殺の対象となるかどうかが争われたものです。
大阪地方裁判所平成5年2月22日判決交民26巻1号233頁
事例
2歳男児のAは道路を横断しようとしていたところYが運転する自動車と衝突して重症を負い、事故から22日後に死亡した。YはAが死亡する前にAの両親Xに対して30万円の見舞金を支払った。また、Aが死亡した際にさらに30万円を香典として支払った。
その後XはYに対して不法行為に基づく損害賠償を請求したところ、Yが見舞金と香典にそれぞれ30万円支払ったので、合計60万円が賠償額から損益相殺されるべきと主張した。
判決 見舞金は損益相殺の対象、香典は対象外
YがXに支払った見舞金30万円は、関係者の被害感情を軽減するために支払われるものにしては高額であり、損害填補の趣旨が認められるとして損益相殺の対象とすることを認めた。
香典については、30万円という金額を考慮すると社会儀礼上被害者感情を軽減するために支払われたものであって、損害填補の趣旨を有するものではないとして、損益相殺の対象とはしなかった。
解説 損害填補の趣旨かどうかがポイント
基本的に見舞金にしても香典にしても、加害者が被害者の感情に配慮してなされるという点で、損益相殺の対象となるかどうかの判断基準は共通です。
損益相殺の対象となるのは損害の填補としての性質を有するかどうかがポイントです。見舞金・香典が被害者感情に配慮してなされたのなら、それは損害填補の趣旨とは言えません。
本ケースでは、見舞金としての30万円は損害填補の趣旨であるとしましたが、香典30万円はそうではないと判断しました。香典に30万円は一般的な相場から見れば高いようにも思えますが、死亡事故の加害者と被害者という特殊な関係ですから、通常よりも高い金額となっています。
なお、他の裁判例では69万円の香典を損益相殺の対象と認めなかった例や100万円の香典でも認めなかった例が存在します。