運行供用者責任は、文字通り自動車の運行中に生じた事故に限って責任を負います。そのため、自動車のエンジンを切って停止しているときは原則として運行供用者責任は発生しません。しかし、ここで紹介する判例では、自動車が停止していても、その自動車の荷物の積み下ろし作業中に発生した事故について、停止している自動車の運行供用者責任を認めました。
最高裁判決昭和63年6月16日判時1298号113頁、判タ685号151頁
事例
X会社の従業員Aは、同社の敷地内にトラックを停車させ、フォークリフトに乗り換えて荷下ろし作業を行っていた。その際、たまたま会社を訪れていたBがフォークリフトの作業に巻き込まれて死亡した。XはBの遺族と和解し賠償金を支払ったうえで、Aが加入する保険会社Yに対して運行供用者責任に基づく自賠責保険金を請求した。これに対してYはAに運行供用者責任は存在しないと主張した。
判決
本件トラックはその構造上フォークリフトによる作業が行われることが前提となっていること、及び、本件事故はそのフォークリフトによる作業中に発生した事故であることから、本件事故はトラックを当該装置の用い方に従い用いることによって生じた事故であるとして、Aの運行供用者責任を認めた。
解説
この事例は対立関係が少しわかりにくいかもしれませんので簡単に説明しておきます。被害者Bは賠償金をもらったことで紛争殻は完全に離脱しています。賠償金はXが払いましたが、従業員Bが加入する自賠責保険で求償できると考え、Bが加入する自動車保険会社Yに対して保険金を請求し認められたものです。
基本的に自動車の本来的機能は自動車を走らせることであり、運行供用者責任の「運行」も同じ意味と考えられます。そのため、フォークリフト作業まで自動車自体の運行ということに違和感もあります。最高裁はこの事件より前の事件で、クレーン車のクレーン使用作業中に発生した事故について 運行起因性を認めました。
なお、本判決と同時に出された判決で運行供用者責任を否定したものがあります。こちらのケースでは、フォークリフトを作業のためのトラックに向かう途中に発生した事故で、積み下ろし作業を行う予定のトラックの運行供用者責任が争われたものでした。
判断の分かれ目は直接的な作業は行われていたかどうかと言えそうです。