自動車の運行供用者が事故の責任を負うのは、本来自動車が運転されている場合の事故のみです。しかし、自動車を停止させて作業を行っている場合も、自動車の運行中とみなされることは既に述べました。ここで紹介する判例は、自然災害による事故に運行起因性が認められるかどうかが争われたものです。
東京高裁判決平成25年5月22日 平成25年(ネ)182号
事例
Aは妻のBと子のC及びDを乗せて運転していたが、大雨のため通行が不可能な状態であったため、車外に出た。その後近くの川が氾濫したため、A、B、Cの3名が死亡した。
Bの母Xは、BおよびCの相続人として保険会社Yに対して、Aらは冠水の恐れがある場所に進入して被害に遭ったのは、Aの過失による自損事故であるとして自賠責保険金を請求した。
判決
Aは冠水道路に進入し自動車のエンジンが停止して立往生したわけではなく、車外に出たのは他の自動車が停止したからである。また、仮にAが過失により車を故障させて車外に出ざるを得ない状況にあったとしても、自損事故と川の氾濫によるBらの死亡には因果関係がないとした。
解説
判例の開設の前に補足しておきます。この事件は、運転車Aの妻Bの母親が、Aを加害者とする同乗者B及びCに対する賠償責任を主張したものです。娘の夫であるAを加害者と見立てて過失を追及するのには違和感を感じるかもしれませんが、Aが加害者であったとしても保険金を支払うのは保険会社(厳密には国)ですから、このような主張は不自然なものではありません。
ここからが本題ですが、自動車の運行中の事故であったとしても、それが自然災害による事故であり運行起因性が認められない場合は運行供用者責任は認められません。
問題は運転者が自然災害の危険に身を晒すような運転をしていた場合です。本件でXは、Aがそのような危険な運転をしたことに過失があり、運行起因性も認められると主張しました。しかし判決は、Aらの死亡原因は川の氾濫であって自動車の運行とは関係ないと判断しました。
しかし、本当に災害の恐れがある地域に自動車を進行させたことに過失や運行起因性が認められないのかという疑問も生じてきます。今後同様の事例が発生したとしても、全く逆の判断が下される余地があると考えられます。