交通事故等で被害者が死亡すると、その人が将来得られるはずだった収入が得られなくなるという逸失利益が発生します。逸失利益は加害者に対して賠償請求することが可能です。ここで紹介する判例は、遺族が遺族年金を受け取っていた場合にその金額が逸失利益から控除されるかが争われたものです。
最高裁判所平成16年12月20日判決判時1886号46頁、判タ1173号154頁、交民37巻6号1489頁
事例
AはYが運転する自動車による交通事故で死亡し、これに伴いAの遺族Xは労災保険の遺族補償年金と遺族厚生年金を受給した。その後XはYを相手に不法行為に基づく損害賠償を請求した。Xは、遺族年金は生命保険と同様、被害者が支払う保険料の対価であるから、損害賠償額から控除されるべきではないと主張した。また、遺族年金は本来受け取るはずだった老齢厚生年金の損失に対する損害の填補なので老齢厚生年金の逸失利益が問題とならない本件で控除は不当であると主張した。
判決
不法行為で被害者が死亡し、損害賠償請求権を相続人が相続した場合でも損益相殺はなされるべきであること、また、先の判例で障害基礎年金・障害更生年金の受給者が死亡して、相続人が続厚生年金を受け取った場合に、被害者が受けられなかった年金の逸失利益から控除を認めたことを挙げ、本件のように相続人が被害者の死亡によって遺族厚生年金の受給を受けた場合は、被害者が受給を受けるはずだった障害基礎年金、や給与収入等の逸失利益から控除されるとした。
解説
被害者の死亡によって逸失利益が発生したとしても、同時に死亡により遺族年金が受給されるのであれば、それは逸失利益から控除されるようにも思えます。
これに対してXは、2点の主張をしました。
生命保険がそうであるように、被害者側が保険料を拠出して得られる遺族年金について逸失利益の控除を認めるべきではないと主張しました。これが一つ目です。
また、遺族年金は老齢厚生年金の代わりになされるものですから、老齢厚生年金の逸失利益が問題となっているならともかく、そうでない本件についてまで控除は認めるべきではないと主張しました。こちらが2つ目です。
判決はまず一つ目の主張について、過去の判例が、遺族厚生年金と障害基礎年金の控除を認めたことを挙げて否定しました。
また、二つ目については、逸失した利益についてはその性質を細分化せずに全体でとらえるという考え方を採用して否定しました。