被害者が死亡した場合の逸失利益の算定する場合には、収入をベースとして生活費分を控除するのが基本です。しかし、収入がない場合や将来得られるはずだった収入が高額である場合等、様々な事情を考慮する必要があります。
乳幼児の逸失利益
幼児が死亡した場合にも、将来得られるはずだった収入が賃金センサスの全年齢平均賃金によって算定され、その金額が損害額算定の基礎となります。
乳幼児の死亡で問題となるのは養育費です。本来なら支出するはずであった生活費が控除されるのであれば、養育費も死亡によってかからなくなったのだから控除するのが、損害の公平な分担の考え方に沿ったものと言えます。
しかし、判例は養育費の控除はみとめていません。その理由は、生活費が死亡した本人が直接支出する費用であるのに対して、本人が直接支出する費用ではないからだと言われています。
小中学生の逸失利益
就学前の子供が死亡した場合の収入額は賃金センサスの全年齢平均賃金に基づいて算出しますが、大卒や高卒等の学歴によって平均賃金の額が異なりますので、どの学歴の平均賃金を使うのかが問題となります。
従来は中学生までの死亡者の場合、学歴計全年齢平均賃金を使うこととなっていましたが、近年の高学歴社会で、大学に進学することが当たり前になってきています。そのため、家庭状況や進学先の学校似通っている等、大学に進学することがある程度予測できれば、大卒の平均賃金を使うこととなっています。
女子の逸失利益
逸失利益の算定の際、実際に収入がなければ賃金センサスを使うことになりますが、被害者の性別によって平均賃金は異なります。この違いが男女差別であり法の下の平等に反するのではないかとの考えもありますが、最高裁はこれを否定しています。
他方で実務では、女子の生活費控除率を30%~40%と低く抑えることで(男子は50%程度)実質的な調整を図っています。
主婦の逸失利益
専業主婦は収入がありませんが、主婦業も労働であるという考えの下で学歴計平均賃金によって損害額を算定すべきとされています。兼業主婦の場合は実際の収入と平均賃金のいずれか高い方が算定の基礎となります。
年金生活者の逸失利益
年金生活者が交通事故により死亡すれば、将来受給摺るはずだった年金は支給されません。このような年金収入は逸失利益の算定根拠となるのでしょうか。
年金には(基礎年金、厚生年金に関わらず)老齢年金、障害年金、遺族年金があります。
老齢年金:本人が老齢になったときに受け取る年金
障害年金:本人が後遺障害を有する場合に受け取る年金
遺族年金:本人が死亡したときに遺族が受け取る年金
現在の判例では、老齢年金と傷害年金は逸失利益に含まれますが、遺族年金は含まれていません。老齢年金は本人だけでなく家族の生活費としても機能しますから、賃金収入と同様の役割を果たしているためです。障害年金は、障害保険料の支払いの対価としての利益と見られているためです。
これに対して遺族年金は、受給者自身の生活保障目的でもなければ、受給者が保険料を支払ったわけでもないため、逸失利益に含まれないとされています。
外国人の逸失利益
外国人の日本への渡航が増えるにつれて、交通事故の被害者になることも増えてきています。外国人の交通事故で逸失利益を考えるにあたり、その算定基準を日本の賃金基準で考えるのか、それとも被害者の母国の基準で考えるのか、という問題が生じてきます。
日本は諸外国と比べて比較的賃金の水準が高いため損害額を大きく左右するポイントです。
ただ旅行に来ていたというだけなら、もちろん母国の基準によることになります。これに対して就労目的で長期滞在中であれば、日本の基準によるべきでしょう。判例は、予測される日本での就労期間中については日本基準でそれ以降は母国の基準によるとしています。
医学部の学生等の逸失利益
現時点では収入がなくても、将来的に平均よりも高い収入が得られることが予想できる場合もあります。典型的な例は、医学部の学生が死亡した場合です。医学部を卒業すれば、大多数は医師となり、比較的高額な収入を得ることができます。
そのため、逸失利益の算定の際にも産業別の平均賃金に基づくこととなっています。