交通事故の被害者が、通院費等の実費が必要になった場合、被害者の請求によって加害者がその実費を支払う場合があります。後に裁判や示談の中で、支払った実費に事故との相当因果関係がないことがわかった場合、その実費額が損益相殺の対象となるかどうかが争われることがあります。
東京地方裁判所平成15年5月8日判決交民36巻3号614頁
事例
XはYの運転する自動車に衝突されたことで脊髄を損傷する負傷を負った。その治療のための通院交通費としてXは、ハイヤー代として約485万円、タクシーダートして約95万円をYの損害保険会社に請求し、Yはそれに応じて全額支払った。その後、Yは訴訟の中で、ハイヤー代については、事故との相当因果関係がないとして、既にXに支払い済みとなっている485万円については、損害賠償額から控除されるべきであると主張した。これに対してXは、Yの保険会社の了承を得て支払いを受けたものであるから、控除は不当であると主張した。
判決 ハイヤー代は賠償額に充当される
ハイヤー代と事故には相当因果関係がないとして、他の賠償額に充当すべきであると判示した。
また、Xが主張する、支払いにYの保険会社の了承があったことについては、次のように述べてXの主張を否定した。保険会社はハイヤー代と事故に相当因果関係がない場合にまで、その費用を負担することを合意したとは認められない。
解説
本ケースのように、被害者から当面の実費の請求がなされ、加害者側が速やかにそれに応じることは少なくありません。これは、被害者の資力が足りないとか、被害者感情に配慮する必要があるためです。
しかし、後からその費用が、事故と相当因果関係のあるものでなかったことが判明する場合があります。このような場合には、事故による賠償額から既に支払った実費分を差し引いた額を支払うことになります。