加害者の支払うべき賠償金は、被害者に生じた損害を填補する目的でなされますから、同じ趣旨で被害者が事故をきっかけに受け取ったお金があるならば損益相殺がなされます。ここで紹介する判例は、社会保障に関する給付が損益相殺の対象となるかどうかが争われたものです。
大阪地方裁判所平成10年6月29日判決判タ1039号206頁、交民31巻3号929頁
事例 特別児童福祉手当・介護料は損益相殺の対象か
加害者Yの運転する自動車による交通事故で負傷したXは、脊髄損傷の後遺障害が残り、後遺障害等級第1級に認定された。Xは症状固定時15歳で、認定以降大阪市から特別児童福祉扶養手当月額約5万円と、自動車事故対策センター(現在の独立行政法人自動車事故対策機構)から日額2000円の介護料を受け取っており、職業付添人の付き添いの必要な場合には日額4000円の給付を受け取ることが可能となった。
XはYに対して損害賠償を請求したが、これに対してYは、Xが受け取っている特別児童福祉扶養手当、介護料給付、職業付添人の付き添いが必要な場合の給付は賠償額から損益相殺されるべきだと主張した。
判決 いずれも損益相殺の対象とならない
特別児童扶養手当は、支給対象となる児童の福祉の増進を図ることが目的であり、給付には所得制限も設けられているからこの手当は社会福祉事業の一環として支給されるものと認められ、損害填補を目的としていない。
自動車交通事故センターが支給する介護料や付き添い給付は、加害者に対する求償規定がないことから、被害者に対する見舞金としての性質が認められ、こちらも損害填補を目的とする物ではない。
解説 判例は社会保障の損益相殺に否定的
この判決では、法律の規定の趣旨や求償規定が存在しないことを理由に、給付の損害の填補としての性質を否定しましたが、この他にも判例は一般に社会保障に関する給付については損益相殺を認めない傾向がみられます。