自動車損害賠償補償法3条の「他人」に該当しない場合は運行供用者責任を追及できないことは既に書きました。以下の判例は、いずれも運行供用者の他人性が争われたものです。
⇒ 運行供用者が自賠責を請求できる場合1(車外にいる所有者)
⇒ 運行供用者が自賠責を請求できる場合2(車内にいる所有者)
⇒ 運行供用者が自賠責を請求できる場合3(運転代行利用の場合)
一方、ここで紹介する判例のように、運行補助者の地位にある者に他人性が認められるかという問題も存在します。この判例は、運転補助者としての地位にある者は自賠法3条の「他人」には該当しない、とした判時したものです。
最高裁判決昭和57年4月27日判時1046号38頁
事例
Aはブルドーザーでの整地作業が完了したので、撤収するためBのダンプカーの荷台にブルドーザーを積載することとなった。Aはブルドーザーを操縦しBの運転するダンプカーの荷台に乗り上げようとしたところ、ブルドーザーが転倒しAが下敷きになって死亡した。
Aの遺族はXは、Bのダンプカーが加入していた自賠責保険の保険会社Yに対して自賠法3条に基づく損害賠償を請求した。これに対してYはAは運転補助者であり他人には当たらないと反論した。
判決
AとBは共同でダンプカーを運行していたと判断することができ、Aは運転補助者としての地位にあった。そして、自賠法3条に言う「他人」には運転補助者は含まれないと解すべきであり、Aに他人性を認めることはできない。
解説
最高裁は過去に、自賠法3条の「他人」とは運転者と運行供用者以外の者を言うと判示しています。そのためこの事件では運転補助者の他人性も争点となりました。判決は結論としては運転補助者であることを理由に他人性を否定しているため、従来の判例を変更したようにも見えます。しかし、この判決ではBのようなドライバー本人だけでなく、運転補助者も運転者と解釈することで、従来の判例を維持しています。
なお、運転補助者に当たる例としては、バスを駐車時に誘導する助手や車掌、クレーン車のクレーン作業の補助者が考えられますが、作業の態様によっては、該当性の判断が困難な場合も少なくありません。現実には、個別具体的なケースごとに判断していくしかないようです。