素因減額2(心因的要因による賠償額の減額)

交通事故で被害者が傷害を負った場合、加害者はその治療費を賠償する必要がありますが、被害者は治療が必要だったことを証明する必要があります。しかし、現実には被害者は医者の知見からは読み取れない症状を訴えることが少なくありません。ここで紹介する判例は、そのような心因的要因に基づく症状の治療に対する費用をどのように扱うかをしめしたものです。

最高裁判所判決昭和63年4月21日民集42巻4号243頁、判時1276号44頁、判タ667号99頁

事例

Aは自動車を運転中、Bの運転する自動車に追突されて傷害を負った。Aはその後長期間経過しても症状が回復しないと主張していたが、それを裏付ける医学的所見は得られなかった。Aは全額の賠償を求めたが、Bが根拠がないことを理由に拒否したため訴訟となった。原審は事故後3年間に限定して、そのうちの4割の金額をBは賠償すべきとしたが、Aがこれを不服として上告した。

判決 心因的要因は過失相殺を類推適用

傷害と加害行為に相当因果関係があるが、その傷害がその加害行為から発生する程度以上のもので、被害者の心因的要因によるものであれば、損害を公平に分担されるという法の趣旨から、過失相殺規定を類推適用することができるとした。
その上で、Aは、その性格、初心医の常識はずれな診断に対する過剰な反応、過去の受傷歴、加害者の態度等の心理的な要因によって外傷性神経症を引き起こしたと認定し、過失相殺の類推適用は妥当だとして、原審の3年間、4割減額の判断を維持した。

解説

医学的には治療は完了しているはずなのに、被害者が症状を訴えるのは、もっと加害者から金を取ってやろうという良からぬ考えの人も中にはいるのでしょうが、心因的要因によることも考えられます。

心因的要因で症状が継続しているのであれば、それは事故を起こした加害者にも一定の責任が発生するでしょう。しかし、通常であれば考えられないような傷害を被害者が負ってしまった場合にその全額を負担されるのにも違和感があります。

そこで、本ケースの判決は、事故で発生した損害は加害者と被害者が公平に分担するものである、という損害賠償制度の趣旨に着目して、過失相殺制度を類推適用することとしました。

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