労災保険等の公的保険制度の給付がされた場合は積極的損害や精神的損害の賠償金から控除されず、消極損害(逸失利益)のみが対象となります。
ここで紹介する判例は、労災補償の療養給付はその性質上、一部の積極損害について控除の対象となるとしたものです。
大阪高等裁判所平成18年12月19日判決自保ジャーナル1690号2頁
事例 労災補償療養給付から積極損害は控除されるか
Aは交通事故で後遺障害等級第1級の頸椎損傷の後遺障害を負った。Aには労災保険から療養補償給付が1365万円支給されていたが、加害者に対する不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の中で、次の積極損害のうちどれが控除対象となるかが争点となった。
治療費、入院雑費、将来治療費、将来リハビリ費、将来の訪問看護費、将来介護費、吸引機、消耗品費、車椅子、家屋改造費、リフト設置費、電動ベッド・テーブル・サイドレール、マットレス
判決 治療費・入院雑費のみ控除される
労災補償の療養補償給付は、治療費及び入院雑費については性質を同じくするものであり控除が認められるとしたが、それ以外の積極損害については認められないと判示した。
解説
冒頭で書いたように過去の最高裁判例では、公的保険の給付は積極損害については控除の対象としないと判断されています。しかし、本ケースでの判決は例外的に一部の積極損害について控除を認めました。
これは、労災補償療養給付というものが治療費の填補のために支払われるものであることが理由です。治療費としての性質を有するのであれば、積極損害であっても同一目的と考えられる部分については控除が認められることになります。
本判決では、既に発生した治療費、将来の治療費、入院雑費入院雑費について控除対象となることを認めました。もっとも、労災補償療養給付の控除範囲の射程はどの程度なのか、というのははっきりしておらず、本ケース以外の下級審判例でも様々な判断が示されている点には注意する必要があります。