生命保険を掛けていると、その死亡原因が病気であっても交通事故であっても、その原因に関係なく定められた金額の保険金が支払われます。ここで紹介する判例は、生命保険金を受領した交通事故被害者(遺族)が加害者に対して請求できる損害賠償金額は、受け取った生命保険金の額を減額したものかどうかが争われました。
最高裁判所昭和39年9月25日判決民集18巻7号1528頁、判時385号51頁、判タ168号94頁
事例
AはBが業務中に運転する自動車との交通事故によって死亡した。Aは生命保険に加入していたため、保険金が遺族のXに支払われた。Xはその後Bの雇用主Yに対して不法行為に基づく損害賠償を請求した。これに対してYは生命保険金相当額が賠償金から控除されるべきだと主張した。
判決
生命保険契約に基づいてなされる給付は、被害者が払い込んだ保険料の対価としての性質を有し、不法行為の原因とは関係なく支払われるものだから、たまたまXが事故で死亡したからと言って、不法行為の損害賠償額を減額するいわれはない。
解説
現在では広く常識的に知られていますが、生命保険金は交通事故等の不法行為損害賠償金との損益相殺はなされないと判断されました。その理由として判例は、次の点を挙げています。
- 保険料の対価は被害者が支払ったものであること
- 不法行為の原因と関係なく支払われること
生命保険金と同様に損益相殺がなされない保険としては、任意保険の搭乗者傷害保険があります。こちらは交通事故に限定されてはいる点で2に当てはまる場合もありますが、自損事故でも保険金が支払われることや、保険会社が損害賠償請求権を代位取得しないことから損益相殺は否定されています、
逆に、対人・対物賠償責任保険や人身傷害補償保険は代位規定があり損益相殺の対象となります。これらはいずれも、被害者に生じた損害を填補するためのものだからです。