サラリーマンが傷害を受けて休業した場合は、直前の収入が損害額算定の基礎となり、それに喪失率を乗じた金額が休業損害額となります。しかし、個別の事情を見渡してみれば、休業損害だけでは補償が不十分な場合があります。ここではそのような場合に逸失利益が認められるかどうかを説明します。
昇給やベースアップと逸失利益
サラリーマンが傷害を受けて休業した場合は、直前の収入が損害額算定の基礎となります。しかし、症状が重く入院通院が長期化した場合は、昇給の機会を逸失することになります。昇給の遅れは通常であれば一生同僚と差が埋まることはありません。このような場合、昇給していた場合の損害を逸失利益として加害者に請求することができます。
これに対して、ベースアップについては損害として認められていません。ベースアップは、その時点での社会の一般水準や物価の上昇によって金額を改訂するもので、昇給とは性質が異なるためです。
歩合制と逸失利益
サラリーマンでも、営業職のように、成果に応じて給料が毎月変動する場合もあります。通常の損害額の算定では直前の収入がベースとなりますが、事故がなければ得られたはずの収入が直前の利益と同額とは必ずしも言えません。
このような場合、被害者側が、事故がなければ得られたはずの利益の額を証明できれば、逸失利益が認められます。実際になかった仮定の話ですから、厳密な証明が必要というわけではなく、ある程度具体的な金額が発生することが合理的に説明できれば認められると考えられます。
新入社員の逸失利益
新入社員は給与所得が少ないため、収入ベースで損害額を算定すると、学生のときより損害額が少なくなる場合があります。これは、学生が全年齢平均の賃金センサスを使うためです。
しかし、学生の時に死亡した場合より、働き始めてからの方が逸失利益が少ないというのも不合理な話です。そのため、新入社員などの若年者の損害額は学生と同様全年齢平均の賃金センサスを使うことがあります。
死亡による逸失利益
サラリーマンの死亡による逸失利益は、基本給はもちろん、各種手当、賞与が考慮されます。また、残業手当も相当と認められる範囲で認定されます。さらに、昇給分についても企業の昇給規定から推測することが可能であれば認められる場合もあります。
サラリーマンが死亡すると、その時点で会社は退職することになり、退職金が支払われます。この時支払われる退職金は定年まで勤めた場合より減額されることになります。この減額分についても、逸失利益が認められています。ただし、それには会社の退職金規定等の明確な証拠が必要となります。