運行供用者であっても、自賠法3条の「他人」に該当し損害賠償請求が可能となる場合があることは、運行供用者が自賠責を請求できる場合1(車外にいる所有者)で既に説明しました。ここで紹介する判例は、運行供用者が自動車に同乗している状況において、どのような場合に「他人」性が認められるかを示したものです。
最高裁判決昭和57年11月26日民集36巻11号2318頁、判時1061号36頁、判タ485号65頁
事例
Aは友人のBらと共に自分の車でスナックに行き、その帰りに友人らを帰宅させるため最寄駅まで運転していた。Bは、他の一部の友人達と自分の家で飲みたいから車を貸してほしいとAに頼み、Aがしぶしぶこれに応じたため、Bと運転を交代した。Aは電車で帰宅するため、Bに駅まで送り届けてもらうつもりだったが、駅に着く前にBが交通事故を起こし、Aが死亡した。
Aの相続人Xは、Bに自賠法3条の責任があるとして、Aの車両の自賠責保険会社Yに対して損害賠償を請求したが、これに対してYは、Aは自分の所有する車両に乗車しており、運行を支配する立場にあった運行供用者であり、損害賠償は認められないと反論した。
判決
まず判決は、Aは友人らを帰宅させるために自動車の運行を開始したが、その途中でBが一部の友人を連れて自宅に行くことを決め手目的が変更されたとしても、本来の目的と矛盾することはないとして、BだけでなくAにも運行供用者責任が生じることを認めた。また、AがBに自由な運行を許していたとしても、AはいつでもBの運転を中止するよう求めることも可能であったから、Bが言うことを聞かず運転を変わろうとしなかったというような特段の事情がない限り、自賠法3条の「他人」に当たるとは言えないと判示した。
解説
この事件では、原審は運行供用者が自賠責を請求できる場合1(車外にいる所有者)で最高裁が示した判断枠組みを用いて、Bが「直接的・顕在的・具体的」な運行支配をしているのに対して、Aは「間接的・潜在的・抽象的」な運行支配しかなかったとして、Aの他人性を認めていましたが、最高裁はこれを否定しました。これは上記の判断枠組みが、一般論として使用可能な要件ではないことを示唆しています。
なお、特段の事情によってAの他人性が認められる余地がある旨が示されていますが、この具体的な内容については明確にはなっていません。