交通事故が発生した時は、被害者は加害者に対して不法行為責任を追及することができますが、その自動車が事業者所管のものであれば、事業者に使用者責任を追及するのが一般的です。従業員個人に追及するより資力があり、責任追及が容易なためです。
ここで紹介する判例は、下請事業者の従業員が起こした交通事故について、元請事業者が使用者責任を負うかどうかが争われたものです。
最高裁判決昭和37年12月14日民集16巻12号2368頁 判時325号17頁
事例
建築請負業者Aは下請業者Bに対して工事の下請をさせていた。工事時間中、Bに私用が発生したため、Bの業務用の自動車でBの子Cとその友人Dに運転してもらい自宅まで送り届けでもらった。そして、Dの運転でB宅から工事現場に戻る際に死亡事故を起こした。
事故の遺族は、Bの元請け業者であるAに対して使用者責任を追及した。これに対してAは、Dの運転にまでAの使用者責任は及ばないと反論した。
判決
元請人と下請人との関係が、使用者と被用者の関係と同視し得ると認められる場合で、下請人が第三者を使用している場合でも、その第三者の行為全てが元請人の使用者責任の対象となるわけではないとした。そして、第三者の行為について元請人が使用者責任を負うのは、元請人の指揮監督関係が直接または間接に及んでいる場合に限られるとした。
その上で、Dの行為はBの下請事業そのものの執行に関するものではないとして、Aの使用者責任を否定した。
解説
使用者責任が認められる典型的な例は、加害者が会社の従業員で業務中に発生した事故です。しかし、使用者責任は必ずしも労働法上の雇用関係がある場合に限って認められるわけではなく、直接的・間接的な指揮関係にあれば認められています。そのため、元請業者が下請業者の従業員の行為について使用者責任を負うことがあります。
もっともどんな行為にでも使用者責任を認めるべきではなく。元請業者の直接・間接の指揮監督関係が及ぶ範囲内でのみ認められることになります。例えば、Dが休日に私用で自分の自動車を運転していた場合の事故の責任を追及できないのは明らかです。
この事件で問題となったのは、Dの事故がAの指揮監督関係に及ぶものかどうかという点でした。最高裁は、まず、Dの行為はBの事業の範囲には含まれるとして、Bの使用者責任を認めました。しかし、その事業内容はAからの下請に起因するものではなく、あくまでもBの事業として完結されるものと判断し、Aにまで使用者責任は及ばないと判断しました。