交通事故を原因として被害者が自殺した場合、加害者はその損害を賠償する責任があるのでしょうか。ここで紹介する判例は、被害者が自殺した場合の損害の20%は加害者に賠償責任があるとした事例です。
最高裁判所判決平成5年9月9日判時1477号42頁、判タ832号276頁、交民26巻5号1129頁
事例
Aは自動車運転中、対向車線を走行するBの車両がセンターラインをオーバーしてきたことによって傷害を負った。むち打ち症との診断により14級の後遺障害が認定されたが、その他にも頭痛やめまいなどの症状を訴えた。本件事故のことを口にすることも多く、Bとの示談交渉が難航していたこと、医師に自己の意思に反する就労を勧められたこと等から災害神経症状態となた。さらにその後、勤務先工場の閉鎖され退職、うつ病を患い自殺してしまった。
Aの遺族は自殺はBの交通事故によるものであるとして損害賠償を請求した。
判決
Bとの事故でAが負った傷害は、重大な後遺症を生じるものではなかったが、Aは大きな精神的衝撃を受け、それが長い年月残ったことや示談が円滑に進まなかったことが原因で災害神経症状態となり、それがうつ病に発展し最終的に自殺したことを認めた。
そのうえで、過失のない事故で傷害を負った者が災害神経症状態となりうつ病に発展することは多く、うつ病患者の自殺率が高いことから、事故とのAの自殺の因果関係を認め損害の80%を減額した額を賠償額として認めた。
解説
交通事故の被害者が自殺したとしても、それは被害者側の事情であって加害者としては何の関係もない、と考えることもできるでしょう。しかし、事故と自殺に相当因果関係が認められるのであれば、その一部を加害者に負担させるのは、不合理なこととは言えないでしょう。
しかし、全額が認められるわけではなく、被害者の心因的要因に寄与するところが大きいため、80%と大幅に減額しています。とは言うものの、他の素因減額の場合と異なり、加害者からすれば本来負うことはないはずの賠償責任を負わされるわけですから、(被害者側の)素因減額というより「加害者側の原因による増額」と言った方が正確な捉え方かもしれません。
他の素因減額に関する判例は下記を参照してください。
⇒ 心因的要因による賠償額の減額
⇒ 体質的素因による賠償額の減額
なお、被害者の自殺による賠償責任を負う場合でも、自賠責保険や任意保険の対人賠償責任保険で補償を受けることは可能です。