過失相殺の過失の対象となる「被害者側」の範囲は運転補助者の自賠責請求1(他人性を認めなかったケース)で紹介した判例で、「被害者と身分上・生活関係上一体と認められる者に限る」とされています。しかし、ここで紹介する判例のように、例外的にこの範囲外でも過失相殺が認められたケースがあります。
最高裁判所判決平成20年7月4日判時2018号16頁、判タ1279号106頁、交民41巻4号839頁
事例
Aは暴走族の一人であり、Bの運転するバイクの後ろに乗って、他の数台の自動車・バイクと共に暴走していた。C県警察のパトカーは、Aらの暴走族を取り締まるために店舗施設の駐車場で待ち伏せをしていたところ、Bが運転するバイクを発見したため、赤色灯をつけたりサイレンを鳴らしたりせずに道路に出てBのバイクを制止しようとした。そのときBはもう1台のバイクを発見しわき見運転をしたため、待ち伏せしているパトカーに気付くのが遅れ衝突した。
その結果後部に乗っていたAが死亡したため、Aの遺族は運転していたB及びC県を相手に、不法行為に基づく損害賠償を請求した。これに対してCは、Aが死亡したのはBのわき見運転による過失に基づくものであるとして、被害者側の過失による過失相殺がなされると主張した。
判決
判決は次の通り過失相殺を認めた。
AとBの運転行為に至る経緯や運転行為の態様からすれば、AとBは共同で暴走行為を行って板と認められるから、本件事故に至った運転がBの単独行為と見ることはできない。過失相殺における公平の見地から、本件事故におけるBの過失はAの過失として考慮することができる。
解説
先に書いたように、被害者側として過失相殺が認められるのは、「被害者と身分上・生活関係上一体と認められる者」に限られます。しかし、本ケースのAとBはそのような関係にはありません。
それにも関わらず判例が例外的に過失相殺を認めたのは、AにもBにも暴走行為という共通の目的があったことが挙げられます。実際に事故が起こったときにハンドルを握っていたのはBですが、事故の合った日のAとBの関係から見れば、Aが運転していたのと同視できる、と判例は解釈しました。