他人の自動車に乗って目的地まで移動することは多くあります。このうちバスやタクシーではお金を払って乗ることになりますが、友人や知人に無償で乗せてもらうことも日常的に発生します。これを好意同乗(または無償同乗)と言います。
好意同乗中に事故が発生した場合、かつては好意同乗減額が認められていました。しかし、ここで紹介する判例が示すように、最近では認められなくなってきています。
東京地方裁判所判決平成2年7月12日自保ジャーナル900号2頁
事例
AはBの所有する車でCやDと一緒に深夜のドライブに出かけた。4人全員で交代しながら運転していたが、Cが運転しているときに交通事故が発生し、Aが後遺障害を負った。AはBとCに対してそれぞれ不法行為に基づく損害賠償を請求した・これに対してB・Cらは、AはドライブをするというBやCと共通の目的で自動車に乗り、運転も交代でしていたことから、好意同乗者に当たり損害賠償額は減額されるべきだと主張した。
判決 好意同乗減額は認められない
A自身が事故の危険性が増大するような状況を作りだしたり、事故が発生する可能性が極めて高いことを知りながら自動車に同乗した等の、Aに事故の発生について非難すべき状況があるのならともかく、単に深夜のドライブで、休憩も取りながら4人で交代して運転していた場合にまで好意同乗による減額を認めることはできない。
解説 なぜ認められなくなってきたのか
そもそも、なぜ好意同乗によって賠償額が減額されるのでしょうか。その理由は、何ら対価を支払わずに自動車に同乗する利益を得ておきながら、事故が起こったら所有者や運転者に対して全額の賠償を求めるのは不公平である、というものでした。
かつては判例・実務共に好意同乗減額が認められてきましたが、本ケースで示された判決のように、最近では単に好意同乗であるという理由だけでは認められなくなってきており、実務でも同様に扱われています。
このような変化が起こった理由は、自動車の所有や乗車の価値が時代と共に下がってきたという事情があります。昔は自動車を持っているのは富裕層に限られ、好意同乗は「乗せてもらえるだけありがたい」という考え方をされていました。この考えが好意同乗減額の根拠と言えます。
しかし、誰でも自動車を持っている現在では、そもそもそのような価値観自体が存在しません。そのため好意同乗減額も当然には認められなくなってきているのです。
好意同乗減額が認められるのは本ケースの判決が示す通り次の場合に限られます。
- 被害者自身の行動が事故の原因となっている場合
- 事故のリスクが高いことを知りながら(例えば飲酒運転)同乗した場合
なお、任意保険の人身傷害補償保険では他の自動車搭乗中の事故が補償されるプランもあります。